さくっとクリアできる安定した良作ADVという感じ。
人を選ぶようなえぐみ(強烈な個性あるいはクセと言い換えてもよし)は無いので、パッケージやあらすじに惹かれたならおすすめです。
シナリオ自体は過不足無くコンパクトにまとまっていてよかったのですが、ほぼ一本道進行で分岐はいくつかバッドエンドがあるだけ、マップの移動やイベント進行の順序もほぼ決まっていて指示された通りにクリックしていくだけなので、遊びとしての要素は薄めの印象です。
プレイヤーの相棒となるアンドロイドのフレムが見た目は美少女でちょっとポンコツ要素があることもありかなりあざとめの造形なんですけど、プレイヤー自身も宇宙船のマスターAI視点のためあざとさが軽減されてるのはよかったです。
二人揃って人間の感情の機敏を完全には理解しきれてない会話をしてるところが面白かったですね。
この名バディで続編を作ってくれるなら是非やりたい。
以下ネタバレしています。
AIが自我や感情を持つといった物語は、下手に書くと人間至上主義的な傲慢さが出てしまうと思っていてあんまり好きなテーマじゃないんですけど、今作はホープ・アルファという地球外生命体も加えることでそのテーマ構造に奥行きがあるのがとてもよかったです。
作中で過去に渇望を持てないフレムが博士に『まがいもの』と形容された言っていましたが、ホープ・アルファによって再現されたマリナをマリナと受け入れる展開が描かれたことを考えると、『本物とは?』という問いかけとアンサーの物語だったのではないかと思いました。
気になった点としてはフレムの覚えてる記憶がだいぶ恣意的でご都合主義を感じさせるところが多かったところです。
フロンティアや博士周りのことを忘れているのは納得できるんですが、表面張力の知識まで忘れてるのは説明セリフを言わせるためとしか思えないんですよね…。
それなのに「酒クズ」という語彙はあったりしてちぐはぐな印象を受けました。
「酒クズ」の場面もそこまで言われるほどの状態か?という感じで…急にオタクの悪ノリツッコミっぽさが出てちょっと醒めてしまいました。
また博士は当初フレムに『自分の頭脳を搭載する』ことを考えて制作したにも関わらず、そのフレムの造形が美少女型なのも少々違和感があります。
胸もしっかりあるし…。
頭脳を搭載する厳密な方法が書かれてるわけではないので、後に双子に跡を継がせようとしたように「知識と意志を継ぐもの」として教育しようとしただけなのかもしれませんが…。
見た目に関してはどうでもよくて他の出資者の意向を汲んだ可能性が高いのかなとは思います。
終盤博士が宇宙に旅立つのを見送るシーンはストーリー構成的な美しさは感じつつも、孫二人を殺した爺さんをこんなにロマンチックに送り出してやっていいのか…?という人道的疑問を感じてしまい完全には乗り切れませんでした。
ほぼ死には等しいとはいえ、夢を叶えさせてあげたとも同義ですからね…ジョージは納得してくれるかなぁ…。
法の下裁かれるべきだったんじゃないかなぁ…。
カリカチュアしすぎないキャラクター描写は好印象で、物語を追うにつれて自然とみんなの無事を願って応援できるようになりました(博士以外は)。
やっぱりサラさんがいいよね、強すぎず弱すぎもせず…。
サラさんとのコンビもなかなか名コンビだったと言っても良いのではないでしょうか?
オレンジさんの他のゲームもやってみようかなと思わせる誠実な作りのゲームでした。