国さんの言語化記録

ネタバレ有りの感想ブログです。

『グノーシア』感想

ネタバレしています。

まず気になったところを上げます。

この作品には男女以外に「汎」と呼ばれる性別が存在します。

ゲーム内での表現を見る限り後天的に選択する性別で基本的には身体にも処置を施していることが多いようです。

(ラキオは汎ですが男性として産まれた体をそのままにしているようなので絶対ではないようです)

これだけ見ると一見ジェンダーフリーな印象を受けますが、実際プレイしていると現代の性愛規範から逃れられてはいないということを感じさせる表現がところどころに存在するんですよね。

一番わかりやすいのがSQとしげみちからあやしまれた時に、セツが自分と主人公は恋人だと偽って誤魔化そうとすると「セツは汎なのに恋人関係になるのはおかしいのではないか?」という疑問を抱かれるところです。

「汎=無性」というのは恋愛や性的なことを望まないとされており、裏を返せば性がなければ恋愛というものは発生しないと言っているようなものではないでしょうか?

もちろん性愛的なことを望まないため汎を選択する人は存在するでしょうが、全員がそうではない筈です。

汎になり男性あるいは女性、はたまた汎同士で恋愛がしたいという人間は存在するでしょう。

恋愛と性は必ずしもイコールではない筈ですし、また身体の性的特徴を取り払うことを選択したからといって他者との性的接触ができなくなるわけではありません。

キャラクターに異性愛者の設定があり、対応する性別によって恋愛イベントが発生したりしなかったりするのは全く構わないんですよ。

自分は何も知らずプレイヤーに女性を選択した結果、ステラとの恋愛イベントが起きない世界線となってしまい歯噛みしましたが(選択した主人公と同性のキャラに好意を寄せられたい人間のため)、ステラが女性を恋愛対象として見れない人格である以上仕方のないことです。

汎のセツやラキオ個人が恋愛および性的願望がないのもそれぞれのアイデンティティの内です。

ただそういう個々人の在り方を越えて、性を取り払ったなら『そういうもの』に興味なくなるのが普通という価値観にはあまり納得ができませんでした。

「汎」という第三の性を用意したことでかえって無意識の固定概念が浮き彫りになってしまった、という感じがします。

もちろん描かれていないだけで無性で恋愛や性愛を望む人々には別の定義が存在しているのかもしれませんし、そうであったらいいなと思っています。

 

以上の点以外には不満はほとんどありませんでした。

グノーシアと銀の鍵をあくまでマクガフィンに留め、主人公とセツのループに焦点を絞り描き切ったのはよかったと思います。

(この辺の語るべきことと語らないことの取捨選択がストーリーを作る上でのセンスだと思うので)

ククルシカやレムナンのキャラの個性づけの一つかと思われた設定がきちんとつながって収束し、「パッケージがSQちゃんである理由」を理解させられる流れはめちゃくちゃ気持ちよかったですね。

自分はクリエイターの端くれのため「設定をキャラにそのまま口で言わせるのでなくストーリーや行動で示すのがベター」だと思っているので、SQちゃんが生い立ちについて語ってくれるシーンや最終局面でのセツの謎解きなどに引っ掛かりを覚えなくもなかったのですが、このゲームが徹頭徹尾宇宙船の中から舞台を動かさずミニマムであり続けたこと、そもそもの『人狼』が『会話を軸にした駆け引きゲーム』であることから減点対象にはならないと感じました。

ウロボロス状態になったセツと主人公の因果を完全に断つためには違う次元から介入する他ないわけですが、そうすると『主人公』と『プレイヤー』は同一存在ではなくなるためセツと完全にさよならしなくてはならないのは、理解はできても胸にきます。

どうかセツとプレイヤーの手を離れた『主人公』が新たな友情を築き楽しくやってくれますように。